日本茶の粋なおもてなし 宝瓶で叶える至福のひととき
器のあれこれ | 2022/08/30
宝瓶(ほうひん)を見たことはあるけど、使ったことは……。
そんな人も多いはず。でも、スタイリッシュな宝瓶がひとつあれば
自分へのご褒美に、友人へのおもてなしにと、
日本茶のある暮らしの喜びが、いっそう高まります。
一日のはじまりは
宝瓶で淹れる「朝茶」で
朝のおでかけ前に、一杯の日本茶を。そんな「朝茶」がカラダによいと、いま、静かにブームになっています。昔から「朝茶は福が増す」とも言われていますが、バタバタしがちな朝に、日本茶でほっと一息つくことで、心にゆとりが生まれ一日を豊かに過ごせるはず。そんな朝茶には、宝瓶で淹れる一杯がおすすめです。朝の10分が、至福のひとときになることでしょう。
宝瓶は上質な茶葉を低温のお湯や水でじっくりと浸潤させることによって、旨みを凝縮できる急須の一種です。今回おすすめしている浅蒸し煎茶の茶葉は針のように長く、細かい茶葉がほとんどないため、茶漉しがない宝瓶でも美味しくいただけます。
まず、水出しで味わってみてください。お湯だと茶葉が一気に開いてしまうため、一番美味しく味わえる抽出時間を過ぎてしまうと苦味が増してしまいますが、時間をかけてじっくりとお茶の旨みが浸透していく水出しは、多少の時間が過ぎても気にすることなく味わえます。まろやかな口あたりで、美味しい香りと旨みが口のなかに広がります。
手に馴染む感覚も愛おしくなる、三川内焼の透き通るように美しい白磁の宝瓶。旨みが詰まった最後の一滴まで愉しんで
三川内焼 嘉久正窯 宝瓶・小煎茶セット 白磁 / いい日になりますように ▼
大切な友人へのおもてなしに
宝瓶で広がる
日本茶のバリエーション
大切な友人へのおもてなしは、宝瓶で淹れる日本茶を。上質な宝瓶で淹れる姿は凛々しく、情緒さえ感じさせてくれます。水出しでいただいた後に、お湯で淹れたり、最後に茶葉自体を召しあがっていただくことで、愉しみのバリエーションも広がります。
そんな宝瓶の使い方は他の急須とそれほど変わらず、難しくもありません。持ち手部分がないのは、あまり熱くないお湯を使うから。宝瓶のなかに一人分茶さじ1杯程度の茶葉を入れ、水出しの場合はそのまま水を入れて、茶葉が開き、旨みが水の中に浸潤するまで待ちます。お湯の場合はあらかじめ湯冷ましに注いでおき、お湯の温度が50℃ぐらいになったら宝瓶へ移して1分程度待ちます。使用する水にも、こだわりたいところ。ミネラルが少なくて、味のクセのない軟水のミネラルウォーターなら、茶葉のもつ旨みをより感じられます。
あとは、蓋を抑えながら煎茶碗に注ぐだけ。一番肝心なのは、待つ時間です。蓋を開けて茶葉の状態や浸潤具合をみて、飲みどきを確認しましょう。1杯目は水出しで、そのあとはお湯で2杯目、3杯目まで美味しくいただけます。友人と何気ない会話などを愉しみながら、ゆっくりと日本茶時間を満喫できるのが、宝瓶の魅力なのです。
飲み終わった茶葉は、そのままお湯を切って、ぽん酢とかつお節を加え、おひたしのようにして食べるのもおすすめ。最後まで美味しくいただけるのも、いい茶葉だからこその愉しみです。
左:お湯で淹れる時の抽出時間の目安は1分~1分半程度。茶葉が6割ぐらい開いてきたら一煎目を淹れる頃合いです
右:最後にいただく茶葉は、緑茶の風味やほのかな苦味を愉しめる大人の味わい
「三川内焼」の宝瓶
江戸時代に平戸藩の御用窯として生まれ、幕府への献上品としてのみ作られていた三川内焼(みかわちやき)。400年以上の伝統を受け継ぐ陶匠も少なくなりましたが、最上クラスの白磁にこだわり、職人が精魂込めてつくる逸品です。薄手の器、そこに描かれた繊細な造形が、当時のヨーロッパで高く評価され、大英博物館にも収蔵されています。2016年には日本遺産にも認定されました(※)。
三川内焼の宝瓶は、丁寧な職人の手業(わざ)によって薄く焼かれ、煎茶碗に注ぐときに水切れがよいのが特徴です。また、その愉しみは、味わいだけではありません。上質な浅蒸しの茶葉になればなるほど、キレイな緑色の葉が開きます。茶葉が開く様子を、蓋をあけて見て愉しめるのも宝瓶の魅力のひとつです。特に三川内焼は、磁器のなかでも白さにこだわったものなので、茶葉の緑色がより美しく映えます。
ちょっと一息入れたいとき、会話を愉しみながら……。宝瓶は、友人と過ごす時間をいつもより特別に演出してくれる、おもてなしの一品。そんな宝瓶の魅力を、ぜひ試してみてください。
平戸藩御用窯の創立より350年続く「嘉久正窯」。三川内焼の代表的な伝統技法、手描きの染付で描かれた繊細で優美な菊紋様
三川内焼 嘉久正窯 宝瓶 菊、嘉久正窯 小仙茶 菊 / いい日になりますように ▼
※三川内焼(みかわちやき)
2016年4月「日本磁器のふるさと 肥前」の構成文化財のひとつとして「日本遺産」に認定。
構成・文/アトリエあふろ 合屋順久