静岡茶の未来を拓く「茶農家集団ぐりむ」の挑戦 vol.1
さんちのおと | 2022/08/01
日本茶を愛し、日本茶の未来を見据えお茶づくりに勤しむ、若き「茶農家集団ぐりむ」をご存知でしょうか。「いい日になりますように」では、日本茶づくりに情熱をささげ続ける彼らに注目。一年をとおしてどのように日本茶づくりを行っているのか、季節ごとにご紹介していきます。第1回目となる今回は、彼らがなぜ「茶農家集団ぐりむ」を立ち上げたのか、春の新茶の収穫時期から夏にかけ、茶畑で行われていた茶づくりについてお届けします。
「山腹を覆う茶畑。この美しい山里で、
僕らはお茶をつくっています」
日本一のお茶どころ、静岡県の中央。標高350mの山間地に両河内(りょうごうち)という名の小さな集落があります。清冽で豊かな水と深緑の山々に抱かれた美しい山里は、古くから静岡茶の産地として栄えてきた地域です。山腹や急峻な傾斜地に茶畑が広がり、日本の原風景を思わせます。
先人たちが慈しんできた宝物のようなこの土地、静岡県両河内の地で代々お茶をつくっている豊好園(ほうこうえん)の片平次郎氏が約4年前、同世代の仲間と始めたのが「茶農家集団ぐりむ」です。
「茶農家集団ぐりむ」が管理している茶園は、両河内や日本平など静岡市内に点在しています
静岡茶も、茶畑が広がる静岡の原風景も、
次世代へつなげるために
茶農家集団「ぐりむ」は、豊好園の片平次郎氏、同じく静岡市清水区にある杉山貢大農園の杉山貢大(みつひろ)氏、しばきり園の杉山忠士氏の3名で2017年にスタート。それぞれ自園を営みながら、茶農家集団「ぐりむ」を立ち上げました。なぜ、彼らは自園のみならず「ぐりむ」での活動を始めたのでしょうか?それは……「地場産業でもある静岡茶の未来のためにできることはないか」との思いからだったそう。
手軽に買って飲めるペットボトル入りのお茶のニーズが高まっている一方で、急須で淹れる茶葉の需要は年々右肩下がり。より合理的で便利さを求め移行してきた現代における茶葉のクオリティ、旨みを求め肥料過多による人工的な旨みがするお茶の普及など、さまざまな問題を感じていた彼ら。「このままでは茶処、静岡茶の未来はどうなってしまうのか」そんな想いを払拭すべく、廃業が決まっていた両河内地区の工場を受け継ぐことを決意。そして、主に市場へ供給する荒茶(仕上げる前の原料茶)をつくりながら、単なる共同製茶工場にとどまらない活動を展開しています。
その一つが、園主の高齢化や後継者の不在によって休耕地となってしまった茶畑の再生と管理。荒れた茶畑をつくりかえ、蘇らせることで、自分たちが育ってきた「お茶のまち」の景観を残していく。そして、その茶葉を丁寧に茶本来が持つ「美味しい静岡茶」に仕上げ、適正な価格で市場に供給していくことこそが「僕らのミッション」と掲げて。
茶農家に生まれ、子どもの頃から茶畑に囲まれて育った「ぐりむ」メンバー。「これから先もお茶の専業農家として生きていきたい」と片平さん
「ぐりむ」が育む
美味しい日本茶
風や日差しが心地よい、春から初夏。茶農家にとって1年でもっとも忙しい新茶の収穫をむかえます。「毎年、4月中旬頃から新茶の収穫が始まると、何とも言えない幸福感に包まれます。春に摘みとった新茶を飲む瞬間は喜びでしかありません。また、新茶の時期が終わると間もなく、6月中旬頃から一番茶(新茶)のあとに出てきた新しい芽が成長し、二番茶の収穫が始まります。新茶に比べて、葉はガッシリ、カテキン多めの雄々しい渋さを味わえる二番茶は、夏にぴったりですよ」と笑顔で話す片平さん。
そして、二番茶の摘み取りが終わる7月上旬頃からは、直ぐに来年の新茶に向けた茶畑の管理がスタートします。さらに、夏の時期は梅雨時期に降った豊富な雨と日照で長く伸びてしまう雑草や害虫となる虫を防ぐ防除作業で忙しい日々に。「この夏の間の作業こそが、美味しい日本茶づくりにとって、とても重要なんです」と夏空の下、茶畑へ向かいます。
そんな日本茶づくりに真摯に向き合う彼らのこだわりの一つが、茶畑の「肥料と農薬」。
「肥料をたくさんあげることで旨みを高めるフォアグラのようなお茶はつくらない」をモットーに、年1回、プロに依頼し土壌分析を実施。肥料に求めるのは、あくまでも茶樹を元気に健康に育てるため。そのために必要な肥料の最低限の種類と量を見極め、茶葉が持つ本来の味を引き出せるよう、茶づくりを行っています。
農薬も同様。彼らは茶葉が病気になったり、虫がつくのを避けるため、あえて少量の農薬を使います。
「人間と同じで、たとえばエコだからといって盛夏にエアコンをかけず我慢し過ぎるのはかえって体によくありませんよね。茶樹がストレスなく、心地よく育ってくれる環境=畑をつくり、その上で常に茶畑に足を運び、見守る。茶樹の状態を見て、残留農薬がないものをつくる努力を続けることこそ、もっとも大事なことと考えています」
製茶の工程では手のひらで葉の状態を確認し、自身が思い描く理想の日本茶のイメージに近づけていく
シーンを選ばず、いつでもどこでも
普段着のようなお茶を自由に味わって
お茶に真っ直ぐな茶農家集団「ぐりむ」がつくる日本茶は、一口飲んだとき、茶畑の美しい風景が目に浮かぶような、そういうお茶をめざし、つくられています。
「僕らがめざしているのは決して高級茶ではありません。みなさんの日常、たとえば食事やおやつのお供に飲んでもらえたら本望。淹れ方や作法など気にせず、好きなように飲んでいただく、いつものお茶として愛してもらえたら嬉しいです」
『いい日になりますように』のティーバッグは「茶農家集団ぐりむ」のお茶です。
7day’s tea ティーバッグ/ いい日になりますように ▼
次回は、「茶農家集団ぐりむ」が秋の茶畑ではどんな活動を行っているのかをご紹介する予定です。
ご期待ください。