常滑急須に惹かれて vol.1 一生ものの急須に出合う
器のあれこれ | 2022/08/25
丁寧に注がれた一杯の日本茶に、ほっとひと息つく憩いのひと時。
そんな時間を演出するのに欠かせない急須の日本一の産地が、愛知県・常滑市です。
多彩な色やフォルム、さらには茶葉のよさを引き出すといわれる常滑急須の魅力は、ひとことでは伝えきれないほど……。そんな常滑急須の知られざる魅力について、これから一つひとつ探っていきたいと思います。
まず初回は、常滑急須の歴史的背景や特徴をご紹介しましょう。
やきもの散歩道を歩きながら
常滑急須200年の歴史にふれる
「常滑」という地名は、そもそも「常(とこ=床)→土」が「滑らか」ということに由来していると言われています。時代を遡ること平安時代末期。この地の粘土質な土が、焼き物に適しており、常滑市のある知多半島には多くの窯が築かれました。当初は壺や甕(かめ)、土管など、比較的大きなものが中心でした。
国の重要文化財に指定されている現存する登窯。明治20年頃に造られたもの
そんな常滑の焼き物の歴史にふれることができる「やきもの散歩道」には、壁一面に土管が埋め込まれた「土管坂」や、国の重要文化財にも指定された日本最古の登窯などが残されています。作家が作陶に勤しむ工房や、常滑焼の器を使った落ち着いたカフェなどが並ぶ、細く曲がりくねった小道をぶらぶら……。風情ある町並みを、海風を感じながら歩く。焼き物ファンならずとも、一度は訪れたい場所です。
古い土管や焼酎瓶が擁壁に。足元には土管を焼いたときに使った焼台が埋め込まれ、滑り止めの役目も果たしています
常滑で急須が作られるようになるのは、煎茶が流行り始めた江戸時代後期。鉄分を豊富に含んだ土は、しっかりと焼き締まり、水が漏れないため急須に向いていたからです。また当時、朱泥による急須作りは高い技術を必要としたため、朱色の急須は高価で憧れの存在でした。偶然にも常滑の土は鉄分を多く含むため、焼成することで朱色になることに名工が目を付け、一気に朱色の急須が広まったと言われています。
お茶の味がまろやかに
産地ならではの匠の技が息づく
「常滑急須の魅力は?」「お茶の味がまろやかになる」
急須作家をはじめ、多くの茶人が答えています。これは、土に含まれる鉄分が、お茶に含まれるタンニンと反応して、お茶の渋味を消すからです。
まろやかになるということは、お茶の味が変化するということ。急須によって使う土の配合も変わるため、淹れてみないとどんな味になるか分からない。新しい発見があるのも、常滑急須の魅力の一つです。
「常滑急須は生産量もそうですけど、クオリティも日本一だと思います」。と語るのは産地の方々。なかでも蓋と本体がぴったりと重なる『蓋合わせ』の技術は、とくに優れており、茶葉の蒸らしやお湯の温度を適温に保つことは、日本茶を美味しく淹れるためには大事な要素になります。およそ200年にわたって脈々と受け継がれることで進化してきた技術と多くの急須作家がこの地で切磋琢磨し、より質の高い急須を作ってきたことがうかがえます。
練込によるマーブル模様が美しい、ろくろ引きで作られた急須。細部まで高度な技術が施され、茶葉の味を存分に引き出してくれます
赤練アミメカット急須 友仙作 / いい日になりますように▼
色や形、容量など
シーンに合わせて選ぶ楽しさも
全盛期に比べると、常滑で活躍する急須作家の数は減ったと言いますが、それでも現在およそ50人の作家が、日々急須作りを手がけています。なかでも若手作家の作品に注目が集まっています。伝統的な朱色のものだけでなく、炭のような漆黒色のもの、海に面した土地ならではの藻を用いたもの、背の低い平らなものなど、個性的な作品が次々と生まれ、使いたいシーンによって急須を選ぶ楽しさも増えています。
「いい日に」Online storeでは、伝統的な朱泥からモダンなデザイン、作家の一点物や限定品まで、多彩な急須を取り揃えています。
あなたのお気に入りの一つを見つける楽しみも
常滑急須に魅力について語る連載の第一回目は、常滑急須が誕生した背景についてご紹介しました。
次回は、常滑焼の土について、なぜ急須に向いているのか、さらに深く探っていくことにしましょう。
構成・文/真下智子